腕きき職人ルポ
見えないからこそ丁寧に
次世代の大工が担う真摯な手仕事
大工/森山 颯

今回取材にうかがったのは、愛媛県松山市内のとある施工現場。新しくできた分譲地の奥にある一角です。ほかにも建築中の家がいくつも並んでいて、ギュルルル…キュイーン…といった、工事現場特有の金属音が、ときおり風に乗って耳に入ってきます。
中へ入ると、この家の施工を手掛ける森山さんが、飾らない人柄のにじむ笑顔で出迎えてくれました。
今回の現場は、随所に施された
アールのデザインが印象的な家

室内は、玄関の框や壁、リモコンニッチなど、随所にあしらわれたアール(曲線)のデザインが目を引きます。2ヵ月前に着工が始まり、この日は壁紙の下地となるピンク色のボードを張っているところ。森山さんが請け負う作業のなかでも終盤にあたると言います。
建物の土台となる基礎、柱や梁を組み上げる“建前(たてまえ)”※、フローリングや壁紙の下地張り。完成後はほぼ見えなくなる家の骨組みを作るのが、森山さんの主な仕事。基礎や建前は大掛かりな作業なので、大工仲間を呼んで大人数で一気に行いますが、そのあとはひとりきりでコツコツと組み上げています。
※上棟(じょうとう)、棟上げ(むねあげ)、建方(たてかた)とも。地域や企業によって呼び方が異なり、愛媛県では“建前”と呼ぶ大工が多い。
父の背中を見て技術を学び
2年前にひとり大工として独立

約9年前、弱冠16歳で大工の世界に飛び込んだ森山さん。
実は、父・裕也さんもコラボハウスの専属大工。見習いとして、父が請け負ったさまざまな現場に入り、大工仕事を学びました。
今までで一番印象深い現場は、宇和島市内にある“じゃこ天屋さん”だとか。働き始めてまだ2ヵ月ほど。じゃこ天の製造工場、店舗、住居がひとつにまとまった、3階建ての店舗兼住宅を目の当たりにして「こんな建物も作れるのか!」と、衝撃を受けたと言います。
2年ほど前に「颯建築」の屋号で独立。
現在は、父と同じコラボハウスの専属大工として、愛媛県内の現場で腕をふるっています。
設計図をもとにどう作るか考え、
先々を見据えて組み上げる
施工現場が決まり、まず渡されるのは分厚い冊子になった設計図。平面図や立面図に、寸法がこと細かに書かれていますが、作り方は一切ありません。図面をもとに「何を使って、どう作るか」を頭の中でシミュレーションし、最適な材料を選んで組み上げていきます。
玄関で目を引くアール壁には、壁面を支える柱が一定の間隔できっちりと並びます。この上から専用のボードを湾曲させながら張るので、経年しても美しい曲線が続きます。柱の歪みが起こりにくいように、あえて間に板を挟んで上下2段に分けたそう。
森山さん「『ここまでせんでいいやろ』って言う人もいますが、個人的にはしたほうが間違いがないと思っています。こだわりですね。」
施主と設計士の描いたイメージを、すぐれた技術とさりげない心配りで具現化する森山さん。
ここが終わったあとは、1週間と空かずに次の現場が待っているそう。誠実な仕事と“ひと手間”を惜しまない大工としてのこだわりが、これから始まる新たな家族の暮らしを力強く支えています。
大工
森山 颯 HAYATE MORIYAMA
愛媛県喜多郡内子町生まれ。颯建築代表。祖父から続く大工一家の長男に生まれ、16歳から父に師事して大工仕事のいろはを教わる。2年前に独立。愛媛県中予・南予エリアで、年間5棟ほどをひとりで手掛けている。2026年には、地元・内子町に自邸を建てる予定。もちろん設計はコラボハウス、施工は自ら手掛ける。
